平成29年9月3日~4日に、岐阜県支部主管の第31回中部ブロック和裁指導者研修会が、岐阜県関市の関観光ホテルにて開催されました。
研修会は、堀部岐阜県支部長よる開会挨拶の後、2つの講演がおこなわれました。
私の「染・織の道」
・人間国宝 染織家 重要無形文化財 「紋紗」保持者:土屋順紀 氏
関市在住の土屋氏は、自宅近くなどで採取した植物で染料を作り自ら糸を染め、その糸で紋紗に絣の技法を加えた独自の織物を製作してます。
関市で生まれ育った土屋氏は幼少の頃、目にした関市春日神社の能衣装に大きな衝撃を受け、それが美の原風景となり、美への憧憬はその時から始まり、高校卒業後に京都インターナショナル美術専門学校でテキスタイル(織物・布)について勉強されました。在学中には植物染料に興味を持ち、北白川の山に入り染料になる植物の採取をしたそうです。
その頃、学校からの見学で訪れた志村ふくみ氏の工房で、氏の作品に感銘を受け、卒業後すぐに弟子入りします。志村氏は、現在「紬」と呼ばれるものを新たに作り上げ、「染のやることで織がやることではない」と工芸会からの反発があったものの、地味で単調な生地をドレスアップするための生地に押し上げました。地道に作品を発表し続け、その高い美意識で既成概念を超えたと、恩師の志村氏について土屋氏はこのように語りました。
また、土屋氏は、現在日本の織手の最高峰と称され、古代織である羅織の復元・発展に貢献し、織物の組織・構造を追求し続け、それを形にする高い技術を持つ作家の北村武資氏にも師事されました。
糸を染めた後の織の工程については、三原組織と捩(もじり)織の組織上の違いや、捩織を展開させた絽や羅についてその組織の特徴を解説されました。講演の終わりに土屋氏はご自身の作品をスライド写真で示しながら、いつどこで採取したどんな植物で染めたのか、何を考えどのような境遇であったかを一点ずつ丁寧にご説明されました。
土屋氏の作る着物はストーリー性のある柄や色の配置が印象的で、歴史があり自然が豊かな関での日々の暮らしがそのまま着物の姿に表現されていました。そしてその表現力を支えているのは、志村氏から学んだ美意識と北村氏より受け継いだ高い技術力であると感じました。
刀剣の鍛造技法について
・関市重要無形文化財「日本刀」保持者:尾川兼國 氏
「どうすれば刀鍛冶になれるのか?」この問いへの答えから講演は始まりました。現在では、「刀匠」資格を有する刀鍛冶の下で五年以上の修行をした後、作刀実地研修会を終了する必要があり、まず入門先を見つけることが最も難しようです。また、尾川氏は父・尾川兼國氏に師事し、新作名刀展で数々の受賞歴を持ち、「兼國」の名を継いでいます。
講演ではVTRを見ながら尾川氏が仕事の流れを解説し、刀の材料となる玉鋼に実際に触れてみる機会もありました。そもそも武器である刀ですが現在では美術品としての美しさが追求されており、どう鑑賞するのか、刀紋の見方についても説明されました。
研修会の後、懇親会が行われ、西岡中部ブロック長の挨拶、日本和裁士会牧野顧問乾杯にて開宴となりました。たくさんの鮎料理を堪能し、他支部の方々との懇談もあり、最後に深谷相談役の締めの言葉で閉宴となりました。
午後八時からは尾瀬鵜飼を観賞しました。この日はお天気に恵まれ、涼しい風に吹かれながらの鵜飼見物となりました。静寂な暗やみの中かがり火の灯りのもと鵜を操る鵜匠の姿は、古典絵巻のようでした。
翌日は刃物会館とフェザーミュージアムを訪れた後、美濃うだつの町を散策し、歴史と自然から多くを学ぶ実りある二日間となりました。